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世界観を変えた道具−レンズ−(1)
=単純だが画期的な道具=
どうすればレンズを作ることができるのでしょうか?
今では簡単に買うことができるレンズ・・・。400年前、ガリレオは初めて望遠鏡を空に向け、天体観測をしました。* 彼は望遠鏡を作るに当たってどのようにレンズを作ったのでしょうか?
ガリレオが400年前に自分の望遠鏡のためにレンズを作ることが出来たのですから、物質的にはるかに恵まれた我々が自分のためにレンズを研磨出来ないはずがないという思いにずっととらわれてきました。先人は、「見えないものを見たい」という強い衝動に動かされてレンズという画期的な道具を手にしたはずです。レンズを組み合わせることで遠くのものが近くに見える・・・。目に見えないほど小さなものを拡大して見ることが出来る・・・。
自分でレンズを作るということが出来れば、先人の成し遂げた業績の一端でも体感できる理解できるのではないでしょうか?
夜空に輝く月や星を間近に見るとどのようにみえるのか・・・。目では確認できない小さな小さな世界はどうなっているのか・・・。私たちの身フ回りの科学的な理解、認識を深める上でレンズの果たして来た役割は偉大です。レンズは中世以前の観念的な世界観を改め、科学的な世界観の確立の立役者です。「世界観を変えた道具」、それがレンズと言えます。

 *2009年がガリレオが天体観測を始めて400年周年にあたるということで「世界天文年」とすることが決められています。

ガリレオが作った望遠鏡のレプリカ(佐賀県立宇宙科学館所蔵)

ガリレオが作ったとされる望遠鏡としてはイタリアのフローレンス科学史研究博物館に2つが現存します。この望遠鏡はその内の一つのレプリカです。望遠鏡の倍率は14倍。ガリレオ式の望遠鏡ですので対物レンズは凸レンズ、接眼レンズは凹レンズが使われています。このため正立像を見ることができますが、視野や極めて狭く、腕を伸ばして持った5円玉の穴からその先を覗くような雰囲気です。長さが約1.3mあります。
このレプリカは実物と同じで鏡胴は木で作られています。また、本物の外観にあわせて対物レンズ側から接眼レンズ側にかけて胴が細く絞られています。対物レンズの前の白い紙製の覆いは色収差を減少させるために使われたのだと思われます。
研磨皿とガラス素材を摺り合わせることでレンズは作られる
研磨皿とガラス素材を摺り合わせてレンズを作るという工夫は、現在でも基本的に変わっていません。モーターや圧縮空気を利用して手間を省く工夫はされていますが、今でも基本的には、研磨皿とガラス素材を摺り合わせることで必要なレンズの曲面が作られるのです。
凹状の研磨皿とガラス素材を摺り合わせることで凸状のレンズが作られますし、凸状の研磨皿とガラス素材を摺り合わせることで凹レンズが作られます。
先人が苦労して研磨したすべてのプロセスが分からなくても、研磨の概略が分かれば、先人の苦労の一端を理解することが出来るのではないでしょうか?

研磨皿とガラス素材

「パット皿」と呼ばれる研磨皿(左)と研磨のためのホルダーにセットされたガラス素材(右)

「パット皿」は何段階かで行う研磨作業の最終工程で使われる「仕上げ研磨」の時の研磨皿です。鋳鉄で作った皿の上にウレタンパッドが貼られています。
ガラス素材からレンズまで
レンズを作るためのガラス素材は、溶融した光学ガラス材料を金型に溶かし入れてプレスすることで作ります。光学ガラス用のガラスは内部の屈折率が均一で、中に気泡などがなく、透明性の高い質の高いガラスでなければなりません。

ガラス素材からレンズまで

光学ガラス素材(左) 粗成形の終わった素材(中) 研磨済みレンズ(右)

高温で溶融したガラスを金型に入れてプレスすることでガラス素材が作られる。この段階では両面共に平面。表面はスリガラス状。
粗成形の段階では、ガラス素材をカーブジェネレーターというダイヤモンドの刃を持った装置でほぼレンズの形に整えます。この段階でも表面はスリガラス状。
粗成型したものを研磨材の粒径を変えて何段階かの研磨をして、傷一つないレンズに仕上げます。


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